今度こそ、練愛

ちらりと腕時計を覗き見たら、もう残り十分になろうとしている。
そろそろ連絡しないと、さすがにまずいかもしれない。



だけど喋りすぎたせいか頭がぼんやりしてきて、私自身もヤバい。



「大隈さん、用事があるんじゃなかったの?」



こんな時に、核心に迫る言葉が山中さんの口から飛び出した。



「え、はい……」

「いいよ、僕のことは気にしなくてもいいから連絡したら?」



ちらりと振り向いた山中さんは、さっきまでとは違うあっさりした声で告げただけで前を向いてしまう。運転している最中だから仕方ないだろうけど、前へと向き直る時に細めた目の冷ややかさにぞわりと胸がざわめく。



もしかすると怒らせてしまったのだろうか、体中が強張って震えそうになる。



「じゃあ……失礼します」



スマホに触れようとした指先が震え出して力が入らない。



ちょっと待って、視界まで霞んできた。ぼやけたスマホの画面を見ていたら、胸がむかむかとしてくる。非常にヤバいかも。



だけど連絡だけはしなくては。
たとえ隣りに居る山中さんが電話に出るとしても。




震える指先をスマホの画面に滑らせて、川畑さんの番号を表示した。ちょっとだけ横目で山中さんを窺ったけれど、前を向いたままで動揺する様子もない。



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