今度こそ、練愛

大きく息を吸い込んで発信ボタンを押した。



スマホを翳した耳に響いてくるのは呼び出し音と耳鳴り。息が上がってきた気がするのは緊張しているからかな。



だけど微かに何かが振動しているような音が聴こえてくる。どこからかわからないけれど、確かにこの車内で。



もう呼び出し音を十回近く聴いているのに、山中さんは振動しているはずの携帯電話を探そうともしないし車を停めようともしない。
真っ直ぐ前を見据えて、車を走らせ続ける。



ほら、鳴ってるよ。
いい加減に出ないと留守番電話に繋がってしまうかも……



もうすぐ私の家に着く。この通りを進んで三つ目の交差点を右折して、さらに一つ目の交差点を左折すると見えてくる。



ところが車は一つ目の交差点にあるドラッグストアへと入っていく。



ちょうど呼び出し音が留守番電話に変わったところ。留守番電話のメッセージが流れ終えるのと同時に、車はドラッグストアの駐車場に停まった。



「もしもし、大隈です。今日はお約束していたのに、行けなくなってしまいました。本当にすみませんでした。改めて、御連絡させていただきます」



留守電にメッセージを入れて電話を切った。





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