今度こそ、練愛
私が言い終えるのを待っていたかのように山中さんがエンジンを切る。しんと静まった車内を、あっという間に沈黙が包んでいく。
重苦しい空気に押し潰されそうになって、ふうと息を吐いたけど胸が苦しい。
スマホを下ろした指先の感覚がおかしい。
「ありがとうございます、終わりました」
「ここで待ってて、ちょっと買物してくる」
やっと振り向いてくれた山中さんは優しい目をしている。
「はい……」
答えた声がなんとなく掠れてる。
ああ、重症かも。
シートベルトを外す仕草で山中さんの体が傾いてくる。伸びてきた手が私の頬に触れて、ゆっくりと離れていく。そのまま山中さんの手は私のおでこへと触れた。
そして目を細めて、小さく首を振る。
「熱くなってる、ごめん、僕が話し過ぎたかな。少し休んでて、すぐに戻るから」
穏やかな声で告げて、山中さんが車を降りていく。
ドラッグストアへと入っていく山中さんの背中を車窓から追いかける。
いつ携帯電話を取り出すのだろうと気になって。
だけど山中さんの姿が完全に見えなくなった頃、私の意識も途切れてしまっていた。