今度こそ、練愛
この雨の中、どこへ行こうというのだろう。
山中さんの車の助手席に乗せられて、私は窓の外ばかり見ていた。黙ってハンドルを握る山中さんの顔を見ることができない。
山中さんの車に載せてもらうのは約一ヶ月前。私が熱を出してしまって、家まで送ってもらった時以来だ。あの時と車内の匂いは変わっていない。
変わった事と言えば、私の中から川畑さんが消えたこと。代わりに山中さんが私の中に居座って離れようとしてくれない。
なかなか話し出そうとしてくれないから、緊張が高まっていく。自分から話そうにも何を話していいのかわからなくて、窓ガラスを濡らす雨粒を目で追っていた。
車がゆっくりと停止していく。前を向いたら信号が黄色から赤色に変わったところ。
視界の端に山中さんの顔がぼんやりと映りこんだ。
「今日のことは申し訳なかったね」
山中さんが息を吐くように静かな声で言う。
「いいえ、謝らないでください、山中さんは悪くないです。店番をしていたのは私ですから」
答えてみたものの、なんだかすっきりしない。山中さんは何にも悪くない。
だからと言って自分が悪い訳でもないから、私が謝るのも何か違うと思う。
晴れない気持ちを抱えていることが辛くて、口を噤んで俯いた。