今度こそ、練愛

「もう一度だけ、僕を君の彼氏にしてくれないか」



重苦しい沈黙に包まれていく車内に、山中さんの声が響いた。予想もしなかった言葉に内心うろたえながらも、私は懸命に平静を装う。



「どうしてですか? 山中さんは仕事を請け負う側でしょう? 私が依頼していないのに仕事したいなんて変ですよ」

「仕事じゃない、本気で言ってるんだ。それにもう、代行の仕事は辞めたよ」



穏やかな声が私の胸を貫く。
ほんの一瞬振り向いた山中さんの目は、声の穏やかさに反して鋭くて。私の胸を的確に射抜いて、言葉さえ封じ込めた。



山中さんは何を言ってるんだろう。
仕事ではないなら何なの?
仕事を辞めた?



いくら自分の胸に問い掛けても答えは見つからない。



「わかりません、山中さんが何を言ってるのか……仕事を辞めたなら、無理して彼氏になんてならなくてもいいじゃないですか」



散らばった言葉を拾い集めてぶつけたけれど、山中さんは微動だにしない。
それどころか、いっそう彼の目は鋭さを増していく。固く口を噤んだまま、山中さんは車を走らせ続ける。



一緒に居られることが嬉しい反面、山中さんの言葉に不安を覚えずにはいられない。



< 182 / 212 >

この作品をシェア

pagetop