今度こそ、練愛


穏やかな日々が過ぎていく。



あれから一度だけ、山中さんは私の彼氏になってくれた。素顔の山中さんは、代行の仕事として母と会ってくれた時と少しも変わらない。



坂口さんに対する罪悪感はあるけれど、山中さんへの気持ちは負けていないと思っている。
それに彼を幸せにできるのは私だと自負している。



オーナーとしての山中さんは毎日のように手土産を持って店にやって来て、私たちの労をねぎらってくれる。優しい言葉をかけられると嬉しくなって、もっと頑張ろうと思える。



今日は仲岡さんが休み、高杉さんも遠くのお客さんの所へ配達に出かけたところ。
岩倉君と二人きりだけど、慣れてきたから平気かも。接客は専ら岩倉君がしてくれるから、私はカウンターで花の仕分けや手入れをして過ごす。



「大隈さん、ちょっといい?」



お客さんの波が引いて、ひと息ついた岩倉君が私を呼びつける。ついて行くとパソコンを開いて、



「発注したことある?」



と問い掛けながら慣れた手つきで入力し始める。私は岩倉君の手とモニターを見つめながら。



「まだ、したことないです」

「じゃあ教えるよ、高杉さんからも頼まれてるし、これからやってもらわないといけないから」



普段とは違って、丁寧に教えてくれる岩倉君がとても新鮮に感じられる。

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