今度こそ、練愛

メモに取る私のペースに合わせて、岩倉君はゆっくりと丁寧に教えてくれる。途中でわかりにくいところを聞き直しても、少しも嫌な顔をしない。



意外といいところがあると感じ始めたのは最近のこと。もう頭ごなしに怒ることもなく、やっと馴染んできたと思える。



「こんな感じで、後はよろしく。数量を間違えないように気をつけて」

「わかりました、ありがとうございます」



ひと通り手順を教えてもらったところで、お客さんが来たからと岩倉君はその場を離れた。



新しい仕事を覚えるのは楽しい。
少しずつでも成長していける気がするし、私でも力になれると思うといっそう頑張れる。



発注作業を終えて店内へ戻ると、岩倉君が接客中。週一のペースで来店してくれる佐久間さんだ。
私が働き始めた時、花の名前がわからなくて失礼をしてしまったことは今でも忘れられない苦い思い出。



あれ以来、岩倉君は絶対に佐久間さんの対応を私には任せないようにしている。佐久間さんも必ず岩倉君の居る時に来店する。



二人で何か示し合わせているのだろうか。
疑いの目で見てしまうけれど、親子ほど年の離れた二人だからあり得ないだろう。



< 190 / 212 >

この作品をシェア

pagetop