今度こそ、練愛
それから数日後、出社すると通り沿いの窓拭きをしている岩倉君の姿が見えない。置きっぱなしになった脚立を見て、出社していることを確かめながら店内へ。
カウンターにもたれかかって、高杉さんと岩倉君が深刻そうな顔で話している。
何かあったのかと不思議に思いながらも挨拶して着替えを済ませて、掃除に取り掛かろうとしたら呼び止められた。
「大隈さん、ごめん、ちょっと来てくれる?」
高杉さんの声がいつもより暗い。
岩倉君も曇った表情で俯き加減。
「これね、数量を間違えてしまってるの、全部じゃないんだけど一桁多く発注してる」
と言って、高杉さんがモニターを指し示す。
確かにこれは私が発注したデータ。岩倉君に教えてもらった後、ひとりで入力したものに間違いない。
あり得ない数字に血の気が引いていく。
「すみません……」
どうしたらいいのかわからなくて、謝罪の言葉しか出てこない。しばらく考え込んでいた高杉さんが、吹っ切れたように顔を上げる。
「ごめん、大隈さんを責めてるんじゃないの、間違えたものは仕方ないわ、これからどうするのか考えましょう」
明るく装って言ってくれたけど、頭の中は混乱したまま。何にも手につかない。