今度こそ、練愛

「あっ」と仲岡さんが声を上げた。
振り返ると、にこりと笑って掛け時計を指差す。時刻は午後二時を過ぎた頃。
すぐさま察した高杉さんは、きゅっと口角を上げる。



「そろそろ、山中さんが来る頃ですね」

「はいはい、もうそんな時間だったの……早いわね」

「今日は何かなあ……、もう毎日この時間に来るのが日課になってますね、本社の仕事が落ち着いてるんでしょうね」

「そうね、きっと暇なのよ、以前は忙しいが口癖で毎日来るなんて考えられなかったのに」



高杉さんと山中さんの会話は本当なら嬉しくなるような内容なのに、さすがに今日は喜べない。



今日は山中さんに会いたくない。
もう帰りたい。



配達の仕事でもないかと思うのに、こんな日に限って配達どころかお客さんも少なくて。逃げ場もなくて泣きそうになる。



ドアの向こうに、私の好きなスーツを纏ったシルエットが映る。



「お疲れ様、今日は落ち着いてそうだね」



山中さんが柔らかな口調で微笑んで、いつもの歩調で近づいてくる。私もいつものように笑顔で返したいけど、どうしても笑えない。



せめて悟られないようにと視線を逸らすしかない。




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