今度こそ、練愛

「仲岡(なかおか)です、よろしくお願いします」



九時出社でやってきた仲岡さんは私の手を握り、挨拶してくれた。ふんわりとした笑顔に人の良さが滲み出ている。



顔を覗かせていた不安が、安堵に押されて引っ込んでいく。



仲岡さんは高杉さんのひとつ年下の三十七歳で、二人の娘が居ると言う。子供たちを学校に送り出してからの勤務だから、九時出社なのだと教えてくれた。



高杉さんと同じ、いいお姉さん的な雰囲気に私も必要以上の自己紹介。



「はい、そこまで。後は大隈さんの歓迎会でゆっくり話そうね」



つい勢いで話し込んでしまいそうになる私たちを、高杉さんが引き留める。決してキツく怒っているわけではなく、私たちを微笑ましく見守るような顔をして。



「すみません」

「高杉さん、歓迎会いつですか?」



謝る私の隣から身を乗り出して、仲岡さんが目を輝かせる。くすっと笑った高杉さんは、



「うん、来週の火曜日の夜がいいなあ……と思ってるんだけど、いいよね?」



と言って私の顔を覗き込む。



「はい、お願いします」

「定休日の前日だから気兼ねなく飲もうね、私も旦那に早く帰ってもらうように頼んでおかなきゃ、よろしくね」



仲岡さんが私の肩をぽんっと叩いた。



明日出社するもうひとりも、きっといい人のはず。



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