鬼部長と偽装恋愛はじめました
聞き取りやすい声で、時々ジョークも交え、場の雰囲気を中だるみさせないトーク力がある。

お陰で、周りの事務職たちは、職種転換に意欲的な人も出てきた。

一時間を少し過ぎたところでミーティングが終わり、みんなゾロゾロと部屋を出始める。

私も真由と出ようとしたとき、

「本城、ちょっといいか?」

祐平に呼び止められた。

「香奈美、先戻っとくね」

真由はそう言って出ていき、他の社員もあっという間にいなくなっている。

気がついたら、部屋には香坂さんを含む三人になっていた。

「はい……」

なんだろうと思いながら祐平の側へ行くと、彼が心配そうな顔を向けた。

「お前、少し顔色が悪いぞ。調子悪いんじゃないのか?」

「え?」

「あ、本当ね。ごめんね、空調が暑かったんじゃない? ちょっと気になってたのよ」

香坂さんも話に入ってきて、私の顔色を見ている。

祐平がこんな大勢のなかでも、私を見ていてくれたことが嬉しい。

「本城さん、ごめんね。やっぱり温度を下げるべきだった。ねえ、若狭くん、医務室に連れていってあげた方がいいんじゃない? 」

香坂さんはテキパキとそう言って、祐平と顔を見合わせている。

祐平も、「それがいいな」と言っていて、私に目を向けた。

「本城、少し休もう。医務室に連れていくから」

「いえ、そんな大げさなものじゃないので」

慌てて断ると、香坂さんが声をかけてきた。

「本当に顔色悪いわよ。気にせず休んだ方がいいんじゃない?」
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