鬼部長と偽装恋愛はじめました
気が弱くなっているからか、祐平が出て行こうとする姿を見ていると、急に寂しさが込み上げる。

まるで子どもみたいだなと思いながらも、声をかけずにはいられなかった。

「ねえ、祐平……」

私が呼び止めると、祐平はすぐに振り向いてくれた。

「どうした?」

あんなに、苦手で嫌いな人で、早く異動してほしいとか思ってたのに、こんなに側にいてほしいと思うなんて……。

「ちょっとだけでいいの。手……握って?」

もう少しだけ、祐平の温もりを感じたい。

そう思っている自分に驚きながら、祐平を見つめる。

すると祐平は、小さく笑みを浮かべて、ゆっくり戻ってきてくれた。

そして、しゃがんで私の手を握ってくれる。

「手が冷たいな。ちょっと貧血になってるんだよ。ちゃんと休んでろよ」

「うん……。ごめんね、ありがとう」

祐平の手の温もりを感じると、安心してくるから不思議。

そっと握り返して手を離すと、祐平が唇にキスをしてくれた。

帰ったら、香坂さんのことを聞いてみよう。

こんなにモヤモヤしたままなのは、イヤだから。
< 76 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop