鬼部長と偽装恋愛はじめました
祐平が戻ってからしばらくして、産業医の先生が帰ってきた。

やっぱり貧血だったらしく、一時間もすればすっかり良くなった。

真由や田中さん、それに課長にまで心配をかけてしまい申し訳ない。

祐平にももう一度、お礼とお詫びを言おうと思ったら、その日は終日席空きだった。

なんでも、香坂さんと仕事の打ち合わせとか。

詳しいことは分からないけど、ふたりが一緒にいることが複雑だった。

さらに、夕方には祐平からスマホにメールがきていて、急な飲み会で遅くなると連絡があった。

マンションへ帰るとひとり、どこか虚しさが込み上げる。

「ひとりって、こんな味気ないものだったっけ?」

今まで当たり前だったのに、部屋にひとりでいると寂しさが募る。

簡単にご飯を作って食べてみたものの、全然おいしくない。

ただでさえ広い祐平の家は、ひとりでいるとより切なさが増してくる。

「夜景でも見てみようかな……」

テーブルに座って、柵越しに夜の街を眺めても感動は薄い。

このどこかに祐平がいるのにと思うと、余計に会いたさが募ってきた。

「どうして、こんなに好きになっちゃったんだろう」

そして今夜は、香坂さんとふたりなわけはないよね……。
< 77 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop