四百年の恋
***


 (え……?)


 目の前で繰り広げられている事態を、月姫は受け入れられずにいた。


 「兄上、どういうことでしょうか」


 「言葉の通りだ」


 面倒を見る。


 その言葉を真に受けることができないのは、月姫にも分かる。


 (つまりそれは……)


 「お戯れはおやめください。冗談にもほどがあります」


 「私がふざけていると申すのか。いたって本気だが」


 「正気の沙汰ではありません!」


 福山冬悟が大きな声を出したため、周囲はますますざわついた。


 「冬悟さま! 殿の御前であらせられるぞ。お控えなさいませ」


 冬雅公の側近である、赤江(あかえ)という者がそう告げた。


 この赤江なる人物は、叔父の安藤と並び、殿を支える立場にある重臣だ。


 ただ同じ重臣同士として、いささかライバル関係にあると姫も聞いていた。


 「と、殿。酒の席とはいえ少々度が」


 見かねた安藤の叔父が助け舟を出してくれたのだが、


 「安藤、この姫はそなたの親戚筋にあたるのだな。間もなくそなたの養女という扱いになるとか」


 「仰せの通りですが」


 「そのまま、そなたの養女といたせ。その上で姫は、私の側室として迎え入れる」


 「殿!?」


 「兄上!」


 周囲は混乱に包まれた。
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