四百年の恋
 突然の殿の気まぐれな一言。


 弟が正室に迎えようとしている姫を、自らの側室にするなど……。


 大広間の中の人たちは、冷静さを保っているかのように演じてはいるが、誰しもが想定外の成り行きに、内心は動転しているようだ。


 (何てことに……)


 事態がよからぬ方向へと進んでいるのを、姫は悟った。


 だがどうすることもできず……。


 「というわけだ、冬悟。そなたは我が娘と結婚して、次期当主になるのだ」


 まだ十くらいの、幼い姪との政略結婚。


 (それにより冬悟さまが次期当主? そして私は……)


 「姫は何も心配せずともよい。我が側室として、何不自由ない生活を」


 「いやです……」


 「ん?」


 「いやです! わたくしは冬悟さまの妻となるべく、ここに参りましたのに」


 姫ははっきりと反論した。


 この地の絶対君主たる、殿に対して。


 その場の者たちが、息を殺して成り行きを見守っている。


 「側室の地位では、不満か?」


 冬雅がゆっくりと姫の目を見つめながら尋ねる。


 「いいえ。地位など私には何の意味も持ちません。私はただ、冬悟さまと共に生きるために」
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