四百年の恋
 「兄上、いや殿。私からもお断り申し上げます」


 冬悟も姫に続き、冬雅に奏上した。


 「殿の姫君をいただけるとは、まことに恐れ多いお話なのですが、私には将来を誓いました月姫がおります。この約束をたがえるわけにはいきません。どうかこの縁談、なかったことに・・・」


 二人は深々と平伏して殿に願い出た。


 ほんの冗談だ、酒の席での戯れ。


 そう告げて全ては無かったことにしてほしかったのに……。


 「冬悟、下がれ」


 冬雅は冬悟に退出を命じた。


 「殿! 姫は私のものです。どうか」


 冬悟の声はかき消され。


 冬雅の小姓たちが冬悟の両脇を抱えて、広間から引きずり出そうとした。


 本気を出せば冬悟のほうが強いので、勝負を挑めば小姓たちを一蹴できたはず。


 とはいえ抵抗しては、福山家当主に反逆したことになりかねないので、冬悟は自重していたようだ。


 「姫をどうか……!」


 このまま姫を冬雅の元に残すと、どんなことになるか想像がついたので、冬悟は最後まで姫の身を案じていた。


 「姫も、今日のところは下がるがよい」


 「え……」


 「安藤、正式に使者が赴くまで、姫の世話は頼んだぞ」


 「殿?」


 姫は帰宅が許されたが、


 「ただし今後一切、冬悟との面会は禁ずる」


 金輪際冬悟と会わぬよう命じられた。
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