四百年の恋
 「い、いやです!」


 月姫は立場を顧みず、冬雅を睨みつけながらこう告げた。


 「権力があれば、何をしても許されるとお思いですか? 冬悟さまと引き裂かれるなど、絶対に嫌です。どうしてもと申すのであれば、私は喉をかき切って死にます!」


 覚悟の意を込めて、姫は懐の奥に潜ませた小刀を取り出し、喉元に付けた。


 「とっ、殿の前で刃物など!」


 辺りの家臣たちが慌てているものの、どうすることもうろたえている。



 「愛のためには死ねる、と申すか」


 そうつぶやいて、冬雅は低い声で笑った。


 「何が可笑しいのです」


 姫は言い返した。


 「そなたが死ぬのは、ある意味自己責任だ。だが残される者のことを考えたことはあるか?」


 「!」


 姫ははっとした。


 (殿の求愛を拒み、愛を貫いて自害するのは……悲恋物語の最高形態。だけど残された冬悟さまは? そして実家の両親や安藤の叔父夫妻は、さぞかし立場をなくしてしまうことだろう。死んだ私はそれで幸せかもしれないけど、残された人たちは?)


 「卑怯です……」


 姫の手から小刀がこぼれ落ちた。


 「次の連絡があるまで、安藤の元でおとなしくしているんだ」


 そう命じられ、姫は安藤の家に帰された。


 それは事実上の軟禁、いや監禁だろう。


 安藤の屋敷周辺は、冬雅と直属の配下の兵で見張られている。


 (おそらく冬悟さまの屋敷の回りも監視されている。このままでは、会うこともできないままに、私はやがて、殿の側室に・・・!)
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