四百年の恋
 母親。


 キャバレー「夕映霞」のママである清水の母親のことを考えた時、圭介は福山冬悟(ふくやま ふゆさと)のことを思い出した。


 (この地の権力者の愛人の子。冬悟は側室の子。生まれの条件が重なる)


 側室、すなわち正妻以外の女性。


 そういう生まれの、将来を嘱望された子供……。


 背景が酷似している。


 ただ冬悟と清水が違う点は、清水には家督を継ぐべき異母兄が存在しない点だけ。


 (そうか。丸山乱雪は清水を自らの後継者にしようとして。卒業後は東京に呼び寄せて向こうの大学に通わせ、同時に帝王学を授けようとしているのかも)


 そういう「作られた」レールの上を進むことを余儀なくされているのならば、清水のあの全てをあきらめたような表情も説明が付く。


 (そういう運命の元ならば、いずれ地盤を継承した後、お見合いなどでいいところのお嬢さんと結婚させられるんだろうな)


 「議員」の身分に相応しい「妻」を、どこからともなくあてがわれるのだろう。


 (そうなると……。大村美月姫との恋は成就する可能性はない)


 今現在、ただ席が隣なだけの同級生な二人。


 恋愛感情もない。


 だけどもしも、いずれ二人の間に恋が芽生えても。


 そのような将来を約束されている清水には、想いを遂げることは許されない。


 将来も、恋愛も……何一つ自由は与えられていない。


 あの冷めた笑顔が、それを如実に表しているような気がした。


 美月姫とは結ばれない運命。


 それを予測した時、圭介は胸の中で密かな安堵を覚えた。
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