四百年の恋
 「ちっともよくないよ。あの人忘れ物ばっかりで。今日も消しゴム貸したんだよ」


 美月姫は迷惑そうな表情を浮かべる。


 「でもかっこいいから許せるじゃない?」


 「そういう問題じゃなくて……」


 友人たちは清水のことをかっこいいといか言って騒いでいるけど、今ひとつ美月姫には実感がなかった。


 (確かに……、整った顔立ちはしているけど)


 それ以前に、あまりにマイペースな言動についていけずにいた美月姫だった。


 「男子が言ってたけど、清水くんって聖ハリストス時代は、髪の毛ピンクに染めてたんだって」


 「えっ、それって校則違反じゃ……」


 美月姫はピンク色の髪をした清水を想像してみた。


 「聖ハリストスは自主性が重んじられるから、特に髪の毛に関する規定はなかったらしいの。だから違反にはならなかったんだよね」


 「そういえば清水くんの耳たぶに、ピアスの穴もいっぱい空いてるね」


 「……」


 隣の席の美月姫も、それは気づいていた。


 実際にピアスをして登校することはないけれど、複数の穴が見て取れた。


 「清水くんって、不良だったの?」


 美月姫は事情通の友人に尋ねてみた。


 「いや……。グレてるってよりも、一種の反逆じゃないのかな?」


 「反逆?」


 「ああいう家だから、進路も将来も自由にならないんでしょ。それにどこか重苦しさを感じているんじゃないのかな」


 「どういう意味?」


 「美月姫は知らなかったよね? 清水くんのお父さんが、与党幹事長の丸山乱雪だって話」
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