四百年の恋

木枯

***


 「……」


 圭介は職員室で、パソコンの画面を険しい表情で覗き込んでいた。


 「吉野先生、パソコンに穴が開きそうですね」


 同僚が不審がって覗き込んできた。


 「大村美月姫ですか……」


 圭介が真剣なまなざしで覗き込んでいたのは、美月姫の成績データ。


 学年二位のポジションは相変わらず守っているのだが、正直伸び悩んでいる。


 以前だったらトップの清水優雅と紙一重なくらいだったのが。


 今では優雅には大きく水を開けられ、逆に三位グループとの差が縮まってきていた。


 ここに来て伸びが止まっている。


 夏休み明けまでは現役で東大に合格確実圏内だったのに、少し怪しくなってきていた。


 それにしても美月姫の不振は気がかりだ。


 「下の学年の頃から成績上位だった生徒に、よく見られるパターンでもあるのですが」


 同僚がこう述べる。


 この時期、部活を引退して猛勉強に励んでいる「部活引退組」の猛スパートがある。


 それまでの成績上位者グループが、つい気が緩んだ瞬間に、猛スパート組に追いつき追い越されたりもする。


 「あとまさか、プライベートで何か理由があるとか」


 プライベート。


 家庭や友人関係で、勉強の妨げとなるような何かがあった可能性もある。


 (恋愛問題……?)


 美月姫のことを考えると、圭介の脳裏にはどうしても優雅が思い浮かんでしまう。


 (今度、個別に面談した方がいいかも)


 センター試験まで、あと一ヶ月とちょっと。


 美月姫には万全を期してほしかった。
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