四百年の恋
 「悪かったな。順番待ちの時間が判明した段階でお前を呼びに行って、一緒に店の中で待っていればよかったな」


 美月姫はこくっと頷いた。


 だがナンパのショックと怒られたことで、美月姫の機嫌はなかなか直らず。


 五稜郭公園の駐車場に着いても、うつむいたままだった。


 「そろそろ機嫌直せよ。せっかくここまで来たんだから」


 お盆を過ぎると、たちまち日没時間は早まっていく。


 六時を過ぎるともう辺りは薄暗く……。


 「先生が私のリクエストに応えてくれたら、機嫌を直します」


 「何だ? 裸で五稜郭を一周しろとか、周囲のお堀にダイブしろとかじゃなければ、何なりと・・・」


 圭介が語り終わる前に、美月姫はそっと腕を組んできた。


 「おい、ちょっと」


 そんなに大きくない街。


 どこで誰が見ているか分からないので、圭介は美月姫の大胆な行動に戸惑った。


 「約束しましたよね、先生。私のリクエストに応えてくれるって」


 「そりゃそうだけど」


 「だから、今だけはこうしていてくださいね。こうやってくっついていれば暖かいし」


 美月姫はぴたっと腕を絡ませて、離れようとしない。


 「分かったよ。今だけだぞ」


 美月姫は嬉しそうに微笑んだ。


 先生の腕は力強い。


 先生の腕は、暖かい……。
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