四百年の恋
 「……先生、学校で何か嫌なことでもあったんですか?」


 隣の美月姫が顔を覗き込みながら尋ねた。


 「あ、大したことじゃない。ちょっと疲れただけだ」


 圭介はとっさに取り繕った。


 本当は今朝の同僚・初芝静香の言葉が頭に残っていた。


 身代わり。


 美月姫をそばに置くのは、それだけの理由。


 後ろめたい部分を指摘され、圭介は不快にすら感じたのだった。


 静香の自分に対する感情も知っている。


 これまで静香は一番近くにいたのに、ここに来て美月姫の存在がクローズアップされてきたので面白くなくて、二人の邪魔するような発言をしたのだ……とまで圭介は邪推していた。


 「あなたたちは幸せになれない」とまで断言された。


 そっちがそう言い切るなら。


 (宿命とやらに逆らってでも、この女を幸せにしてみせようか)


 そんな対抗心までも芽生えて来た。


 (……堕ちるのも、時間の問題だ)


 真姫を好きになる以前。


 適当に遊んでいた頃の嗅覚が、それを確信させている。


 こちらを見つめる、熱い視線。


 美月姫が深く自分に惚れているのが、手に取るように分かる。


 その気になればすぐにでも、一線を越えることは可能。
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