年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
そうやってしばらく歩いたところで、後ろから呼び止められた。


「片桐さん!」


振り向くと辻井さんが、どうやら走って追いかけてきたようだった。軽く息を弾ませながら、私に向かってくる。

「よかった、見失うかと思った。走るのが早いとは聞いてましたけど、歩くのも早いですね」

弾んだ息はすぐに整って、綺麗な顔で微笑む。

「すみません、お呼び止めして。……大輔に会いに来たんじゃないんですか?」

ぎくりとした私の表情を、辻井さんはどう受け取ったのか。

「そういうわけじゃ、ないんですけど」

素直に認めない私を、少し真顔になって、じっと見る。


「僕が口を出すべきではないと、わかってはいるんですけど。あいつと何か、ありましたか?」


押し倒されて泣いて拒んだと、まさかそのまま話せなくて黙り込むと、私の表情を見ていた辻井さんはまた、ふ、と笑った。

「困らせてしまったみたいですね。すみません。……困らせついでに一つだけ、頼まれて欲しいことがあるんですけど、今から何か用事はありますか?」

「……ありませんけど」

辻井さんが私に頼み、なんて何事だろう。
まったく思い浮かばなくて訝しく見返すと、綺麗な笑顔が少しだけ、悪戯めいた笑みに変わる。

「とりあえず、店に来てもらっていいですか? もう閉める時間ですし、ちょっと僕まで風邪ひきそうなので」

そう言った辻井さんの服装は、お見送りをしたまま出てきたんだろう、コートもなにも着ていなくて、室内にいるような格好だった。走っているときは良かっただろうけど、止まった今は寒いだろう。

私が頷くと、ありがとうございます、と笑って、私を促して店に向かって歩き出した。
< 171 / 462 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop