年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
これを届けて欲しいんですけど、と差し出されたのは、見覚えのある携帯だった。

私のものより一回り大きい画面、黒のカバーは確かに、大輔くんのもののはず。


お店にはアシスタントの女の子と、なぜか咲さん、がいて、掃除をしていた。辻井さんに続いて入っていく私に気がつくと、にこっと笑って頭を下げる。
あの時はかなり酔っ払っていたみたいだけど、私のことは覚えているんだろうか?

辻井さんがスタッフルームのドアを開けて中に私を促す。大輔くんと同じようにテーブルの椅子を私に勧めて、自分はロッカーの方へ歩いて行く。そこから持ってきたのが、大輔くんの携帯だった。

さらに怪訝そうにする私に、困ったような顔を向ける。


「忘れてったんです、あいつ。というか、落としてったというほうが正しいのかな。
……実は昨日、熱出して倒れたんですよ」


倒れた、という言葉に驚いて無言で辻井さんを見上げる。

「先週くらいからかな、どこか調子悪そうにはしてたんです。風邪なら早く帰れ、って言ってるのに、むしろいつもよりも長く店に残って練習していて。これはマズイかな、と思ってたら案の定、昨日の仕事中にいきなりグラッと座り込んでしまって。
ちょうどお客様が途切れた時だったから良かったんですけど、熱を測らせたら三十九度を超えていたので、そのまま帰らせました。
今日の昼に電話しようとしたらそれがロッカーに落ちてるのに気がついて、今から届けがてら様子を見に行こうと思っていたんですけど」

辻井さんは立ったまま、腕組みをして棚に軽く寄りかかっている。

「……先週から、ですか?」

「そうです」

私が会ったときは特に体調が悪いようには見えなかった。ということはあの後だろうか。
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