年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「それに、もしまだ私を好きでいてくれてたとしても、二十二の子に結婚話を持ち出す勇気なんてありません」
「年齢は無理な理由にはならないよ。俺、二十の時に結婚したもん」
いきなりのカミングアウトにぽかんとすると、マスターはくくっと笑った。
「……奥さんいたんですか?」
「もう死んじゃったけど」
またまた驚きの告白だ。なんと言えばいいかわからない。
「俺は沙羽ちゃんみたいにしっかり人生考えたりはできなかったからね。勢いで結婚したみたいなもんだ。でも、金もなにもなかったけど、二人で夢を追って暮らしてた時は幸せだった」
「奥さん、なんで亡くなったんですか?」
「事故。いきなりね」
マスターのプライベートには初めて触れるけど、予想外なことばっかりだ。こちらから尋ねても今まで何も教えてくれなかったのに、なんで今日はこんなにもすらすらと話してくれるんだろう。
「さっきちょうど同じような話をしててね。沙羽ちゃんみたいに結婚について悩んでるヤツと」
さっき、って、ここに座ってたって言ってたのは確か。
「……大輔くん?」
「いや、武尊」
意外な名前にきょとんとする。
「だって辻井さん、もう結婚してるでしょう?」
「一度結婚したら終わりじゃないの。その後の方が難しい。
どっちかというとあいつの悩みの方が深いかもね。沙羽ちゃんも一回話してみたらいいよ」
あの顔を持っていても、悩むことがあるのか。何に悩んでるのか、ものすごく気になる。