年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
それから絵里ちゃんは、見ていて切なくなるほど健気に、祥裄にアプローチし続けている。

私と絵里ちゃんと祥裄の関係を知っている人達からは、また横取りか、なんて怪訝な目で見られることもあったけれど、当の私が応援する姿勢を取っているせいで、その視線は早々になくなった。
今の部署内の空気はもっぱら、絵里ちゃんの頑張りを温かく見守る方向で落ち着いている。これは多分に、最近の絵里ちゃんの成長が、みんなに伝わっているおかげでもあると思う。

お茶を淹れ終わる頃には、絵里ちゃんの心はピンクに傾いたようだった。

「やっぱり男ウケするのは定番のピンクですよね! 年齢的にももうそろそろ着れなくなるし!」

私の前で年齢を口にするなんて度胸があるな、なんて刺々しい気持ちになったけど、本人はそんなこと一切考えずに言ってるんだろう、きっと。

「沙羽先輩は行かないんですか、花火大会。年下彼氏と一緒に!」

湯呑を半分ずつ乗せたお盆の一つを手にして、絵里ちゃんが明るく尋ねる。

「残念ながら彼はお仕事。花火大会で着飾る女の子を可愛くする、裏方さんのほうだから」

週末の花火大会は、この辺りでは一番大きな大会だ。一万発を超える花火が打ち上げられて、縁日もずらっと並ぶ。近隣からもたくさん人が集まって、会場付近は毎年すごい人混みだ。若い女の子たちは絵里ちゃんのようにみんな可愛く浴衣を着て、夏の風物詩に艶やかな色を添えていた。


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