年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「沙羽」
祥裄が私を呼ぶ声が、空々しく聞こえる。
私が聞きたいのはこんな響きじゃない。
「なあ、聞いてんの? なんか言えよ」
ずっと黙ったままシンクの淵に手をついていた私の腕を、祥裄が少し強引に掴んだ。
体を引き寄せられて、近づくまいと足を踏ん張ると、顔を寄せて私の目を覗き込んできた。
「何を言って欲しいの?
私たちもう終わったんでしょ?
今更何が言いたいの?」
近づけてきた顔をぐっと睨む。
「あんたは絵里ちゃんを選んだんでしょ?」
祥裄は腕を離してくれなかった。
私から目を逸らすのは負けた気がして悔しくて、しばらくそのまま睨み合った。
「……なんで髪、切った?」
至近距離で祥裄が囁いた。
その指が、短くなった私の髪を、一筋掬う。
「絶対切るなって言ったのに」
私の目の前で、その髪に口付けた。
抱き合った時に、いつもそうしていたように。