あなたの一番大切な人(1)
 グラスが再び空になったことに気づき、ボトルを注いだが、数滴ほどしか残っていなかった。
  
 新しいものを開封しようか迷ったが、今度は下半身が疼きだした。

  -もうそんな時間か-

 夜も更け、何事も起らなかったことへの苛立ちもあり、行き場のない自分の感情処理にも困っていた。
  
 城内には確かにメイドもいたが圧倒的に男の数が多かった。
  
 この城内でもろもろの処理を行うことも可能であったが、どうしてもそういう気持ちにはなれなかった。
  
 部屋にはキングサイズのベッドが一つあったが、その上で交わったことなど(あったかもしれないが、なんといっても過去にはとらわれないため)無かった。

 そういう気持ちになった時は、街に繰り出すことが習慣化されていた。
  
 もちろんお忍びであるため、本名や身分を明かすことは一度もなかった。
  
 生理的現象を処理するために、いかにもというような店に行くこともあったが、勧誘を受けて一般民家で過ごすこともあった。
  
 これまた意外であるかもしれないが、彼はかなりの容姿の持ち主であった。
  (彼の容姿についてはまた追々記していこう...)
  

   すべてのものは国王のもの
  
 彼が疑うことのなかった信条のうちの一つである。
  
 この国の緑も食料も魔術も財力も兵力も何もかも、彼の思い通りにできるもの。
  
 ましてや人の心も同じである。

  
 彼は決心した。
  
 酒を失ったことで完全に興が冷め、かわりに満たしてくれる獲物を求めて城下街に降りることを。
  
 派手な装飾が施された正装を脱ぎ捨てて、街に繰り出す専用の衣類に着替えていた。
  
 その時、ノックの音が聞こえた。
 
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