あなたの一番大切な人(1)
 彼女もしばらく彼を見つめていたが、ふと視線を逸らして、マントについた埃を手で払った。

 「ったく、少しはしっかりしろよ。みんなああいう代物に手を出すときは、はじめは素人なんだからよ。狙われないように少しは警戒心を持て。」

 そこまで言われて、初めて彼は麻薬の存在を改めて認識した。

 -酒場で感じた妙な違和感はこれだったのか-

 誰にはめられたのかはわからないが、自分が置かれた立場を理解し、身震いした。

 一歩間違えてたら、自分が麻薬漬けにされていたかもしれない。

 一度手を出すと、その時が快楽で満たされても、薬の効果が切れたころの禁断症状が激しくて、手放すことができなくなる魔の秘薬。

 噂では街の一部でそういった違法な薬物が取引されているという情報もあった。

 想像していたよりも問題は大きいようだ。

 窓の外には大きな月が天高く見えた。さすがに今日はかえって休まねばならない。

 -対応は明日以降考えていくか-

 そんなことをぼんやりと考えていたら、ふと目の前の彼女のことが気になった。
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