あなたの一番大切な人(1)
 「なぜ麻薬に手をだそうと思ったのですか。」

 私は、はっとして相手の顔を見上げたが、そこには先ほどのような感情が一切なく、冷めた目でこちらを見ていただけだった。

 言葉に詰まっていると、彼はポケットから小瓶を取り出した。

 それは昨日酒場から押収された、紫色の液体が入ったものだった。その液体は遠くからでもはっきりときらめいており、それを見ると全身の毛が舞い上がる感覚に襲われた。

 彼は、その小瓶のふたをあけ、私のてのうえに置いた。

 とろりとした紫色の液体は、私の手の上でコロコロと転がり、次の瞬間心の奥底からそれがほしいという感覚に襲われた。

 うっとりとその曲線を指でなぞりながら、ゆっくりと手を口元に持っていこうとしたが、隣にいた彼が私の手を押さえた。

 何度もその手を口に当てようとしたが、彼が先ほどと同じように力強い手でそれを制止し、液体はするすると小瓶の中に戻っていった。

 「ダメです。こんなもの食べたら。」

 私はたまらなくなり、立ち去ろうとする彼の足元にひれ伏した。両手で彼の赤いマントを掴み、頭が地面につくほど深く哀願した。

 「そ、それをくれるなら、なんだってするから...」

 「だめですよ、そんなこといってたら。だから昨日あんな目にあったんでしょ。」

 まるで手に入らないおもちゃに対して抗議する赤子のように私は泣いていたのだが、その顔を彼は覗き込み、優しく持ち上げ涙をぬぐってくれた。
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