あなたの一番大切な人(1)
 瞼の裏に焼き付いて離れないあのしなやかな曲線美。

 昨夜、独房ではからずとも身心を共にした女性を思い出しながら、ふと自分が彼女の名前を知らないことに気が付いた。

 よれよれのマントを取り外し、足の裏に付着した泥をタオルで丁寧にふきとり(なぜかここまで素足であるかされたため)、彼は一度手を上げて身体を伸ばした。

 -惜しいことをしたか…-

 昨晩一緒にいたにもかかわらず、彼女との間に何事も起こさなかったことを少し悔みながら、ベッドの上に転がった。

 まぶたを閉じ、彼女の強いまなざしと、麻薬に対する厳しい姿勢を思い出すと、このあと報告にくるミッドレーの調書など想像することも簡単だった。

 -麻薬とはシロですねぇ-

 あの間の抜けた声で報告されるかと思うと少し苛立ったが、彼は昨夜の疲れも負担となっていたため、そのまま吸い込まれるように眠ってしまった。

 開いた窓から、朝の準備を始める人の声がただただ流れていた。
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