短編集『秋が降る』
「俊秀さん・・・ごめんね」
そうつぶやく声は、なんだか自分の声じゃないみたい。

もっと遠いところで聞こえているよう。

体と心が離れちゃったのかな。


俊秀さん、あなたに会いたかった。


あなたに会って、ちゃんと気持ちを伝えたかった。

でも、もう・・・ムリかも。

脱走しようとした人は殺される、って言ってた。
だから、部屋には戻されなかったんだ。

涙があふれる。
ほほを伝うあたたかい温度。

「ごめんね、ごめんね・・・」

まさか、こんなことになるなんて思わなかった。
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