夫婦ですが何か?Ⅱ
静まる空間に生活必需品の家電の音だけが小さく響く。
冷蔵庫のモーター音や時計の針、そんな微々たるものたちが印象を強めるほど静かな部屋なのだ。
悪夢に怯えた子供の様な彼の頭を柔らかく触れていた指先。
躊躇いつつもその指先を彼から離すと、息を吐きながらその身を動かしキッチンスペースから歩き抜ける。
くるりとリビング側に回りこんで、未だにカウンターに突っ伏している彼の姿に歩み寄った。
それでも今度はその表情を捉えて視線を絡ませることになる。
私の方を向いて突っ伏していた彼の横に立つと、そのグリーンアイだけをチラリと動かし私を見上げ、追って軽く上がった口の端。
「おはよう・・・千麻ちゃん、」
「・・・っとに、馬鹿ですね」
存在をようやく現実だと認識し安堵したように挨拶の声を響かせてきた彼に呆れたように腕を組んで見降ろして詰る。
だって・・・だって・・今更でしょう?
「センチメンタルにトラウマに浸ってグダグダしないでください」
「ん・・・はい、ごめん」
「あなたが今も過去の傷に苛まれるなんて言われたら、僅かにも拙いながらも夫婦としての時間を作りあげて自信を持ち始めていた私が馬鹿みたいでしょう」
「・・・・・」
眉根を寄せての不満と叱咤。
でも弾かれた言葉は彼の不安を取り除くものであると確信あっての。
当然一瞬は私の気迫に押されたように動揺見せて、でもすぐにその動揺は言葉の意味に移り不動だった姿が動きを見せた。
「えっと・・・都合よく解釈していいのかな?」
「あなたの【都合好し】な解釈の詳細は私は存じません」
「いや、・・つまり千麻ちゃんは俺の奥さんになれて『嬉しい』って事でしょ?」
「・・・・・・気持ち悪っ・・・」
「何でぇ!?」
嫌悪明確に顔をしかめて彼の【都合好し】に反応を返すと、少し期待に満ちて紅潮していた彼の顔が一気に青く切り変わったのを見逃さない。
歩くリトマス紙男。
でも、酸性反応に切り返すのが得意だったりするんですよ私は。
あなた限定で。
「・・・私は、あなたの妻である事に迷いを抱く気は毛頭ないんです。
何があっても・・・、
そう、『何があっても』・・・です」
「っ・・・」
ああ、ほら、
すでにもうその予兆明確に嬉々として揺れる緑が馬鹿正直で笑えてしまう。