夫婦ですが何か?Ⅱ
捉えたのは床に仰向けに倒れて、それでも力なく笑い私に片手を上げる隣人の姿。
その近くには先ほど割れたらしいコーヒーカップと中身が無残に広がっていて、一体何があったのだと双眸見開き彼を見降ろした。
「いやぁ・・・ははっ・・・お見苦しいところを・・・」
「いえ、普段の上から目線の姿よりは紳士的かと」
「あ・・はは・・・やっぱり・・・面白い人だ・・・」
言葉ばかりは平常装って吐き出す癖にその気迫は完全に追いついていない彼。
なんとか言葉を振り絞った傍から切なげにその顔を片手で覆って目蓋を下ろす。
「あの?大丈夫ですか?何か持病でも?」
一向に起き上がらない姿にさすがに不安になって声をかける。
心臓病とかで私が最後に看取る様な事態になるのも嫌だしな。
だけども返されるのもやはりこの男に好感度が減る様な呆れる答えだったりで、
「いえ・・・多分貧血です」
「お仕事でお疲れですか?」
「いや、実はここ数日まともに食事してなかったので・・・それが原因かと」
「・・・はっ?」
「料理・・・出来ないんですよね・・・」
「・・・・・・コンビニがありますが?」
「なんか出るのが面倒で・・・後回しにしてたらつい・・・」
「死ね・・・」
言ってすぐに翠姫の教育上よろしくない言葉だったとあどけないグリーンアイに見つめられて反省する。
それでも心に思ったその本心は譲れず、心底呆れたというように蔑んで相手を見降ろした。
当然理解している癖にいつも程ではないけれど微笑んでくる男に溜め息をついて、くるりと視線を走らせキッチンを見つめる。
「・・・・・米は?」
「えっ?」
「お米です。それくらいはありますか?」
「あ・・一応・・・」
「・・・・・野菜なんかは?」
「実家から送られてきた物がたしか冷蔵庫に・・・」
「とにかく・・・・今は何より何とか体を起こしてください」
さすがにそろそろ起き上がれるだろう?と促せば、何とか努力を見せて半身を起こした姿に抱いていた翠姫をすかさず預ける。
困惑しながらも抱きとめた彼が意図を察しようと私を見上げるのを、特別視線はあわさずに近くに散らばっているカップの破片を拾い始めた。
「あの・・?」
「翠姫・・・しっかり抱いててくださいね。掃除機で破片吸い込むまで。それが終わったら適当に食事作りますから」
淡々とそれが当然かの様に返し、我ながら馬鹿で無防備だと心で詰った。
確かに・・・彼が嘆くほど私は無防備でお人よしなのかもしれない。