夫婦ですが何か?Ⅱ
俺の投げかけに動きだしていた足を止め何食わぬ顔で振り返った男が一瞬だけ『うーん』と唸った後にニッと笑む。
そして、
「俺、夕月と喧嘩した事ないし、」
一瞬、放心した。
でもすぐに突っ込みどころ満載な一言に眉根を寄せて否定を向ける。
「いやいやいや、してるじゃん。むしろ記憶するところ小さな事拾い上げればほぼ毎日」
「あんなのは夕月が怒ってるだけで、一方的なそれは喧嘩と言わない」
へラッと笑って顔の前で否定を示すように手を振る父を見て、今までの母の嘆きや怒りがどれほど報われていないのかが伺えて切なくなった。
俺・・・母さん似で良かったかもしれない。
そんな自分と父の相違にどこか安堵してゆっくり視線を逸らした瞬間。
「それに・・・俺は夕月を傷つけるような秘密は作らない、
もし作るとしたら・・・自分がどんなに痛みを負おうがその痛みを微塵も顔に出したりしない」
振り返った時にはすでに捉えたのは父の後ろ姿。
どんな表情で発せられた言葉かは知らない。
でも、覚悟ある、信念ある一言はもっともで・・・。
同じように・・・、その夫婦論だけは見習いと心底思った瞬間。
愛されてるな・・・母さんも。
じゃなきゃ・・・とっくに離婚してたか、
あんな無茶苦茶な父とは。
何だかんだ不満は漏らせど、家出じみた行動はしても、母が一度として父と別れたいと口にした事はないのだ。
それは、深く強く信頼してて。
その信頼を得たのも父の絶対の信念か。
それに比べたら?
自分の行動を反芻して乾いた笑いが込み上げる。
どう考えても隠しきれていなかった秘密には己の保身も明確にある。
感の強い彼女に誤魔化せるはずもなく、それを気がついていながら何度も見逃してくれようとしたタイミングもあったのに。
それに甘んじて浅い秘密裏の行動を重ねた結果が今か。
「・・・・情けない、」
ポツリと自分の現状に嘆いて、中にいる彼女の心情に思いを馳せる。
余裕のない俺でごめん。
彼女の怒りを解くのはきっと・・・、
容易でない。