夫婦ですが何か?Ⅱ
どうしよう・・・。
頭がまともに働かない。
ただ映すだけで記録もしない自分の頭は相当現状に困惑していて、ただ無情に自分を制する力に完全に心が怯む。
引きずり込まれて歩く道は街灯もほとんどない細道で、この時間に好んでこんな道を選択する人間などまずいないだろう。
これは・・・マズイ。
さすがに危機感がフル可動で警告を与えて、何とかしたいのにまともに抵抗が出来そうもない。
でも・・・だったら・・・・、
この変質者に犯される?・・・殺される?
ああ、
それは・・・・・
絶対に嫌だ。
人間、追い詰められると普段は加減している力が全開になるのか。
でも自分がどうやって動いたかなんかは記憶になくて、本能的に力任せに抵抗を示せば焦った相手も雑に抑え込もうと隙が出来る。
ハンカチの手が緩み解放された口元に首に巻きつき拘束していた腕が運よく寄って、躊躇う事なく噛みつけば相手の方から私を突き飛ばして走り去っていく。
一瞬の事と困惑した頭ではまともに相手の姿は捉えられず。
でもフードだったのか帽子だったのか何かで顔を隠していた気がする。
【何か】だなんて・・・見た筈の物も記憶できないくらい自分がパニックに陥っていたんだ。
そして今も鮮明に残る相手の無情な力と、自分が噛みついた感覚。
思わず口元を抑えると、今程男が走り去った方向に畏怖してふらつく足で立ち上がった。
今にも・・・戻って来るかもしれない。
戻らなくては・・・。
そんな危機感で途中何度も足がもつれても人っ気のある道に向かって走って息が切れる。
もうすぐ抜けるというタイミングに不意に背後から駆けてくる気配や物音に気がついて、さっきの恐怖に畏怖して足を速める。
でもすぐに背後に追いついた気配と肩を掴まれた手の感覚に叫んで座りこんでしまった。
「きゃあぁぁっ!!」
「っ・・落ち着いてっ!!大道寺さん!!」
再び抵抗しようと同じ位置に身をかがめた相手を押し返すように手を振ると、あっさりその腕を掴んで私の名を叫ぶその相手。
聞き覚えのある声にゆっくりと視線を移せば捉えたのは、
「・・・・・新崎・・・さん・・・」
弾きだした声が激しく震えていて情けない。
声だけではなく体ももう力が入らなくて。
それでも見知った顔に素直に安堵できないのは決してこの人も信用しきれる相手ではないからだ。
だって・・・何で・・・都合よくここに現れたのか。
私を追ってきた道は犯人が逃げ去った方向からで・・・。
やっぱり・・・この人が犯人なのだろうか・・・。