夫婦ですが何か?Ⅱ




もう限界だと顔を覆うと項垂れる。


目の前の男でさえ信用していいのか分からず、今自分に起きた事すら記憶してないまともじゃない自分にも困惑して苦しくなる。


記憶してる事?


そんな物ない。


顔を隠していたという事は分かるのに何で隠していたかもまともに覚えていないのに。


ただ自分に危害を加えようと引きずり込んだ無情な力と、それに必死に抵抗して噛みついた記憶しか・・・・。


噛み・・・ついた・・・。


思い出したそれに冷静さの回帰。


ゆっくり顔を覆っていた手を外し、視線を目の前の男に戻すと数回瞬きする。


その目からは溢れて溜まっていた涙が流れたけれど、それは今の感情によって流れた物ではないから意識もせず。


疑問の眼差しでどこか憐れむような眼差しで覗き込んでくる男に自ら手を伸ばすと彼の手首を掴んで引いた。



「大道寺さん?」


「・・・・・・・」


「あの・・・何ですか?」


「・・・・・・・・無い・・・」



彼の両腕に視線を万遍なく走らせて、犯人であるなら残っていそうな痕跡の有無に心底安堵し脱力した。


薄手の長そでの服の下は何の傷もない肌の腕。


あの時加減なく力任せに噛んだのだから服の上からでも確実に鬱血するか傷跡や歯形として残っていてもおかしくない。


つまり・・・この人は・・・違う。


色々とまだ疑惑はあっても、今程自分を襲った人間ではない。


そう理解すれば今はただ知った存在という事実だけで今は安堵してようやく素直に縋って弱れる。



「・・っ・・・・こわか・・・たぁ・・・」


「はい・・・、何もなくてよかった・・・」


「いき・・いきなり・・・、何が・・・起こったか・・・」


「もう大丈夫です。・・・送りますから・・・立てますか?」



その問いに咄嗟に空返事の勢いで数回頷いたのに力を込めようとしたのに浮き上がらない腰に呆然としてしまう。


体は正直だ。


まだまだ平常でないと、


動きだせるほど恐怖から立ち直ってないのだと暗に示して心も引きずられる。


ああ、こんな弱弱しい自分は違うのに。


何かあっても気丈でいられるつもりであったのに。


実際、彼の忠告も鼻で笑ってあしらった結果がこれだ。


なんて・・・・愚かで・・・浅はかな・・・。



「・・・大道寺さん?」


「すみませ・・・っ・・・少し・・待っ・・」



言葉を切ったのは意図的ではなく、今にも泣きそうだと感じた事と、ポケットの中で鳴り始めた携帯の振動によって。




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