夫婦ですが何か?Ⅱ





隣に住んでいても相手の事情なんて知る由もなく、特に興味もないと小さく疑問を抱く程度で狭い空間の密室を無言で過ごす。


下降する浮遊感を感じながら電光式の数字を見つめていたのに。


何だろう・・・。


背後から視線を感じるのは気のせいだろうか。


どうもじりじりと感じる視線と気配に振り返っては失礼かと耐え抜いて、そんなタイミングに浮上する記憶。



『油断しないで』



彼の言葉鮮明に、妙な戸惑いで心がざわめいて未だ続く視線に焦燥感。


いや、アレは彼の過剰な反応に過ぎない筈。


確証もないのに人を疑って警戒するのは失礼だ。


しかも隣人を。


そんな言い聞かせを自分にしていれば、後押しするように響く到着音。


それに安堵して顔を上げるとふわりと熱気を取り込みながら開く扉。


息苦しさが軽減した空間に心底安堵と疑っていた罪悪感を残しゆっくり歩きだそうと踏み出せば。



「・・・・無防備、」



響いた低い声にさすがに振り返って、でも入れ違うように横から私をすり抜けていく黒い姿。


でも、


トンっと軽い衝撃。


すり抜け様に私の首筋の一点をつくと歩きぬけていく姿。


呆然とそこを抑えながら彼を見つめ、触れた個所の記憶を回想。


あっ・・・・独占欲の所有印。


記憶に新しい数時間前に彼が残した。


そんな事に今更気がついたタイミングに再度響いた低い声。



「あと・・・毎朝の生足も、・・・・・今のその格好も・・・男にはご馳走」



声に反応して顔を上げれば絡んだのはいつものやる気のなさそうな視線なのに、言い終わるや否や。


あっ、初めて見た。


ニッと上がった口の端。


そして指摘するように向けられた視線に自分の姿を返り見れば、彼が知ったら激情物の失態。


さすがに自分でも失態だと感じる。


【無防備】


急いで出てきてしまったがゆえに無防備すぎるキャミ姿にさすがに動揺。


そんな中にクスリと笑った彼が颯爽と歩きだしてその身をエントランスを抜けて外に出して消えてしまった。


でも、それだけ。


親切なのか、忠告響かせ消えただけで彼が懸念していたような不安要素は感じられなかった。


まぁ・・・アレは彼の勝手な警戒だし。


そう結論下してその身をゴミ捨て場の方に身を捻った瞬間。


驚愕。


フッと目の前に立った姿に息を飲んで、一瞬【幽霊】と言葉の浮かんだ姿に不動になった。


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