夫婦ですが何か?Ⅱ
今言われた言葉を確かめるように失礼にもその顔を見上げて見つめてしまうと、それでも爽やかさ継続の笑みでにっこりと笑ったその人が軽い会釈を残して隣の部屋に戻っていった。
私の聞き間違いだった?
『目の保養』なんて言葉が発せられた気がしたけども・・・。
どうもただの爽やかな会社員ではないらしいと頭の記録を書き換えて、同時に逆隣りの主人不在である部屋の扉も見つめての深い溜め息。
何だろう、掴みどころのない隣人たちに囲まれていると実感しながらようやく愛娘待つ自宅にその身を投じた。
『ハニー、ご機嫌いかがぁ?』
「・・・・・つい2時間前も同じ言葉を聞いた気がするのは私のデジャブでしょうか?」
『嬉しいでしょ?俺が近くにいるみたいで』
「仕事お願いします。しっかり働いて多額を稼いでくれた方が何倍も幸せも愛情も感じます」
『・・・・酷っ・・・』
乾いた洗濯物を畳みながらスピーカーでの通話。
本日二度目の電話にそう優しく甘ったるい反応を返す気にもなれず、むしろ仕事をしろと促せば当然不満げな彼の声にようやく笑う。
だって、
「もう帰宅時間でしょう?わざわざ電話しなくとも帰って話せばいい事でしょう」
『仕事終わった開放感の一番に千麻ちゃんの声が聞きたいんですぅ』
「・・・今更そんな言葉にときめきませんよ?」
『知ってるよ。千麻ちゃんが並大抵の口説き文句で俺に反応しないことくらい』
「もういいから帰って来られては?」
『ん?俺が恋しい?』
「・・・・・なんならしっかり残業手当もらってきてくださってもいいですけど」
『分かった、超特急で帰る』
チュッとキスするような音が最後。
馬鹿みたいに浮れた意味のない通話が一方的に終了したのを真っ黒な画面で理解して首を横に振った。
相変わらず馬鹿。
でも憎めない部分でもある。
超特急だろうが普通だろうが30分ほどで帰宅するだろうと予測して、それなら残っていた夕飯の支度も終わらせておこうかとゆっくり立ち上がってキッチンに向かった。
まぁ、準備と言っても温め直しやら薬味の準備なのだけども。
微々たる補足をしようと冷蔵庫を開けた瞬間に今更な不足に気がついて落胆した。
「ビール・・・・ストックギレだったんだ」
『あ~あ、』と溜め息交じりに時計を確認して、どうしようかと迷うも財布を片手にリビングを抜ける。