夫婦ですが何か?Ⅱ
途中寝室を覗き込んで翠姫の様子を伺って、さっき寝ついたばかりの姿はあと数時間は起きないだろうと予測する。
静かに扉を閉めると小走りに玄関に向かってその身を出した。
直後、
「こんばんは、」
そのまま脇目もふらずにエレベーターに向かって歩き始めたと言うのに、すぐに背中にかけられた声。
瞬時に反応して振り返れば新たなる隣人の男が丁度玄関に鍵をかけながらその声を響かせたところで。
カチャリと音を響かせると私に視線を戻して好感的に微笑んでくる。
「こんばんは・・・」
「お出かけですか?・・・・もう薄暗いのに」
「近所のコンビニに行くだけです」
「奇遇ですね。僕もです」
敵意のない笑みで目的地の一致を口にするとフワリ、当然の流れの様に隣に並んだ。
一瞬は『何故?』と、思えど、目的地も、更に言えば行く手段も限られて一つ。
あのエレベーターなのだから特別意味は無いかと嫌悪や抵抗も感じずに歩きだす。
ボタンを押せば意外と早くその扉が開き、巻き上がる風を受けながら中に入り込む。
同じく狭い箱に新たな隣人と乗り合わせて、ゆっくり下降する感覚に身を預けた。
私はそこまで社交性はない。
だから自ら特別声をかけるでもなく、同じ空間に人の気配があるくらいに意識を他所にやっていれば。
「僕の事・・・何か警戒してます?」
「はっ?」
まったくそんな意識など皆無な頭に叩き込まれたものだから、振り返った表情は間抜けだったかもしれないと後々後悔。
でも、この瞬間は何故そんな結論に至ったのか確かめる様に長身を見上げた。
相変わらず相手を油断させるべく柔らかな笑み。
むしろこの笑みを見たこの瞬間に警戒しそうな。
「警戒・・・とは?」
「いえ、隣人といえどまだ馴染み浅い僕が馴れ馴れしくも行動を共にしたわけでしょう?
・・・まがりなりにも男と女なわけで・・と、言う意味の『警戒』です」
「・・・特には。
むしろ、たまたまエレベーターに乗り合わせる相手にいちいち反応する方が自意識過剰な思考の物では?」
「・・・・」
ああ、しまった。
私の悪い癖。
思った事を淡々と無表情で相手にぶつけ、その言葉の棘で相手との溝を作るんだから。
でも、今こうして切り返してしまったのには理由があって。
瞬時に対抗する様に言葉が弾かれた原因は、どこか艶かしい『男と女』という表現を引用してきた彼にも問題がある。
しかも、多分意図的に。
だからこそ、その発言に『警戒』働き瞬時に無意識に威嚇したのだ。
昔の【副社長】であった時の彼に対しての様に。