夫婦ですが何か?Ⅱ
そんな今まさにそうしているかのように危惧して抱きしめた事に、胸元で彼が小さく笑って。
私の腕をポンポンと宥めるように触れるとやや口調と声音を和らげ響かせる。
「大丈夫・・・・、今がそうなわけじゃないんだから、」
「・・・・」
でも、
少なくとも過去にそう思って過ごしていた。
恐怖するにはその事実だけで充分すぎて、まるで悪夢を見た後の子供のように、手放したら失ってしまいそうなものを抱きしめるかのように力が入って緩められない。
そんな私を理解した彼はそれ以上は言葉を重ねず、切り替えて懺悔の続きを口にしていく。
優しく私の背中を撫でながら。
「・・・・・あの直後は・・・・この部屋にいるのが耐えられなくてね。・・・・仕事を命一杯延長して、それでも仕方なしに帰ると屋上に入り浸ってたんだ」
「・・・・・」
「高いフェンスで囲まれてるからそう簡単に馬鹿しようなんて思わなかったけどさ。・・・・でも、時々・・・引き寄せられるような感覚で登りかけて・・・・でも理性が働いてすぐ降りて・・・・ヘタレなだけなんだけどね」
多分彼なりに空気を和ませようとしての失笑なのだろう。
実際にそんな事をする勇気がなかったと言わんとするように自身を『ヘタレ』と詰って笑って。
でも・・・
笑えないです。
「ヘタレで・・・・良かったですよ・・・」
絞りだすように言った言葉。
震えているのが明確な声の旋律に今度は彼が私をしっかり抱きしめ返して。
お互いに表情は見えないけれど痛い程分かる。
今にも泣きそうで、切なくて苦しくて痛い・・・そんな表情。
「うん・・・うん・・・、ヘタレで・・良かったぁ・・・」
「・・・・・」
「ヘタレじゃなかったら・・・今こんな幸せな時間味わってないもん・・・。
千麻ちゃんが奥さんで・・・可愛い翠姫がいて・・・・、
俺・・・最高に幸せなんだよ千麻ちゃん・・・・」
彼の掠れてはいるけれど本心からの言葉に、理解していると、自分も同じ気持ちだと、同調するように数回頷いて。
彼の肩に顔を埋めて静かに流れた涙を誤魔化していく。