夫婦ですが何か?Ⅱ
彼が覗き込んでいたのは自宅である部屋のそれでなく、我が家の方の郵便受けだった気がする。
でも一瞬すぎて確証もない。
「彼は・・・」
響いた声で忘れかけていた奇遇によっての同行者にようやく意識戻して振り返ると、その視線を今程歩いてきた道に向けている彼が含みありげに言葉を続けた。
「知合いですか?」
「同じフロアの隣人ですよ」
「親しいので?」
「・・・・特別は、」
「ふぅん・・・」
含みの継続。
すっきりしない物言いにさすがに眉根を寄せて探るように相手を見つめると、ようやく視線戻した彼はさっきまでの生易しい笑みは止めていた。
「・・・・・彼の前でも・・・無防備を?」
「・・・今日が初対面の相手にいささか切込みすぎではないでしょうか?そして、それにお答えする義務はないと思われますが?」
さすがに余計なお世話だと、答えになる返答はせずに横をすり抜け足早に歩きだす。
だって、早くしないと彼が帰宅してしまう。
【問題のない】1日を示すためにも入用な物を入手し彼より早くあの部屋に存在することが今の私のベストなのだ。
だからこそ、もう背後の存在など気にかけている余裕はないと自分のペースで歩きだし、ようやくマンションの外に身を出す一歩手前。
「こちらを振り返ってましたよ彼・・・」
「・・・・・」
「無防備も・・・・程々がいいのでは?」
言葉を強めるように微笑む姿に挑むように見つめてしまった。
爽やかに見える男は大抵腹が黒いのだろうか?
確実にこの男の前ではもう無防備にはなれないし、ならない、と姿を焼き付けるように振り返ったまま歩きだす。
・・・のが、
悪かった。
前方不注意。
ドンッ、と思いっきり何かにぶつかって情けなくも反動で後ろに尻もちつくとすぐに前から降ってくる声。
「すみません」
慌てたような声で向こうもバランスを取り直した体ですまなそうな笑みでの謝罪。
その顔は記憶がある。
と、いうか、このマンションに住んでいる人の顔は全員じゃないにしろ何かしらの形で見た事はあるのだから当然だけども。