夫婦ですが何か?Ⅱ
でも同じ階でも接点があまりないのだから違う階なんて更にその関係は薄い。
ぶつかったこの人だって顔は知っていて、こうして遭遇したタイミングに社交辞令のように会釈を返す程度の住人で。
30代後半だろうか?
会社帰りのスーツ姿で左手には指輪。
確か・・・奥さんがいた筈だとどこかで記憶する普通の住人。
「すみません。こちらの前方不注意でした」
「いえ、大丈夫ですか?」
確実に自分に非があると謝罪を口にして立ち上がろうとすれば、引き起こそうと手を差し伸べてくれた姿を確認した直後。
自分の意思ではなく引き起こされた体。
しかも目の前の人でなく、背後の【警戒】すべき存在によって。
そして驚きも含めで振り返って『何のつもりだ』と見上げてみれば、捉えたのは微笑み。
私ではなくぶつかった相手への。
「ご心配痛み入ります。でも・・・彼女もこうして大丈夫そうですし」
何故・・・・あなたが答えのでしょうか?
衝撃の一言に唖然としていれば、ぶつかった相手も苦笑いで『そうですか』とそそくさとその場を去る。
一応去り際に私に再度頭を下げて。
ああ、謝るべきは私なのに。
そして・・・・
「いつまでさりげないセクハラを?いえ・・・痴漢ですか?」
「心外ですよ?僕はただ支えて引き起こしただけで、その延長に手を腰に添えていただけです」
「と、言っている間も離れてませんが?」
「ああ、意識してくださってますか?あなたとしてはいい傾向ですね。警戒心は・・・・必要ですよ」
「ご忠告どうも・・・」
「本当に・・・・・気を付けた方がいい」
不意に声音が変わったと思う。
その変化に気がつかない程馬鹿でもないし、ゾクリと肌が反応したのも本当。
その嫌悪にも近い反応の元凶を確かめるように、未だ隣人としての関係としては密着しすぎている相手を見上げて威圧された。
相変わらずの笑みで。
「あなたの意思の強さは力の前じゃ何の防御にもならない」
「・・・・」
「この細身の体に超人的な力でも秘めているというのなら別ですが・・・・」
目が・・・。
気を抜けば洗脳されて呑まれてしまいそうだと感じる眼光。
笑っているのに笑っていないような。
苦手・・・だ。