夫婦ですが何か?Ⅱ
「・・・・千麻ちゃん?」
ああ、何だろう?
この声の響きにここまで安堵するなんて。
僅かに驚き孕んだそれで響いた自分の名前に意識が急変更。
声がした方に瞬時に視線走らせるとスーツ姿の彼が入口に立ってポカンとこちらを見つめていて。
何故そんなに驚いているのかと一瞬だけ疑問に思い、すぐに現状も密着している隣人のせいだと把握。
でも自分の意識より早く響いたのは、
「うわぁ・・・、帰宅早々マンションの入り口で愛妻が浮気してる場面に遭遇しちゃった」
「何とも言い訳苦しい状況だと理解しての切り返しをすれば・・・成り行きゆえの【誤解】です」
「の、割には人間関係おざなりな千麻ちゃんがいやに密着していらっしゃいますね」
「なんか語弊の響きに嫌味が混じってませんか?と、言うか・・・・新崎さんはいつになったら夫婦の揉め事のタネを撒き散らしていると理解していただけますか?」
愉快な戦争を始めかけ、不意に元凶に矛先変えて非難するように密着していた存在を睨み上げる。
お前が元凶だと視線で訴えているのに、こんな状況にも動揺見せずににっこりと微笑んだ彼がようやくその手をパッと離した。
「隣に越してきた新崎です。不測の事態で床に沈んだ奥様を助け起こしたまでの事ですから」
にっこりと信用度高そうな笑みで自己紹介がてら身の潔白と誤解の解明を口にした男。
それを探るように目を細めたグリーンアイは僅かにも不愉快を示して光る。
ああ、面倒な。
でも・・・。
「どうも・・・、初対面間もない妻の救助痛み入ります。でも・・・過剰なる接触は夫婦間の誤解による溝にもなりかねませんのでご遠慮くださいませんか?」
「ええ、勿論。大変失礼いたしました。あまりにも奥様が無防備で見過ごすのも忍びなくて」
笑顔の攻防戦だろうか。
お互いに確実に作り上げた仮面の笑みで。
そしてその話題の中心は悲しいかな私自身で、隣人の余計な一言で不愉快なグリーンアイが非難するように私を見つめた。
「・・・・千麻ちゃん、・・・翠姫もいるし帰ろう」
「ビールのストックが切れていますが?」
「じゃあ、最初から日本酒でいいよ」
一応何故ここにいるかの理由を匂わせると、それでも私をこの場に置きたくないらしい彼が足早に近づき腰に手を添え帰宅を促す。
勿論抵抗する意思もなく同じ速さで歩きだすと、その場に残された男の声が背後から響く。
「さようなら」
軽く首を捻ってその姿を確認しただけ。
返事はせず今は胡散臭いと感じる笑みと視線を絡めてすぐに外した。