夫婦ですが何か?Ⅱ
言った私は別に鬼の形相だったわけじゃない。
彼には嫌味に感じるであろう笑みを口元に携えて、冗談めいた感じにそれを口にしたのだ。
そしてその含みを悪意として感じ取ったかは定かでない紅さんの視線がゆっくり私を捉えて見つめてくる。
さすがに嫌味な感じだっただっただろうか?と一瞬は懸念したけれど。
「・・・・お邪魔します」
「・・・・・・ごゆっくり、」
何か嫌味でも飛ばされるのかと思った。
でもそれに反して突如馬鹿丁寧に頭を下げてきた彼女の言葉に、返した言葉以外の単語は浮上せず、やっぱり掴めない人だと困惑する。
そんな人相手にこうして自分だけが複雑に悩んでも仕方がないのだと言い聞かせるように息を吐くと、中断していた調理を開始しようとまな板の上の包丁に手を伸ばした瞬間。
「千麻・・・」
「あっ・・・」
呼ばれて顔を上げればカウンター越しにこちらを覗き込んで複雑に笑っている拓篤の姿。
そうだ、すっかり巻き込んで彼女を押しつけてしまっていた。と、我に返って反応すれば、チラリと背後の光景を気にしながら遠慮がちに声を響かせて。
「その・・・僕、そろそろ、」
「あっ、うん、なんかごめん。すっかり巻き込んじゃって、」
「う、ううん、ううん。ほら・・・・こんな機会無いと・・・あんな美人と話す機会もないし・・僕」
ハハッ、と軽い声を響かせ気にするなと裏で語る。
感じ取れる気遣いに眉尻が下がったものだけども口の端が自然と上がって。
彼が帰宅する為に、大量であった今日の戦利品をその手に持ちあげたタイミング。
「あれ・・・・・・たっくん帰るの?」
響いた声とその呼び方に驚愕の反応を示したのは私と彼。
そうして声の主を見つめれば、無表情でぼんやりと拓篤を見つめてその返答を待っていて。
若干聞き間違いであってほしかったその響きが、明らかに拓篤を示しての響きだと分かってもまだ驚愕。
だって、いつの間にそんなつきあいたてカップルの様な呼び方で名前を呼ぶ関係に?
呼ばれた拓篤は驚きもせず、相変わらず力の抜けたような笑みで振り返りその問いに言葉を返すのだ。