夫婦ですが何か?Ⅱ
「い、威嚇しないで・・・僕・・だから・・・」
一瞬の人間違えである威嚇の眼差しに見事怯んで困ったように笑うのは拓篤で、自分が食べ終わった桶を持ってそれを下げに来た姿らしい。
「ごめん。どっかの誰かかと」
「茜君ならあっちで卵食べてる」
「別に『茜』とは言ってない」
「この場の誰かって、もの凄く限られると思うよ?千麻」
「・・・・何?私を虐めたくて来たわけ?」
「め、滅相も・・・下手にそんな大それたこと仕掛けたら逆に苛め抜かれちゃうし・・・」
「・・・ふっ・・・あははは、うん、うん、・・・倍返し」
その一言に思わず噴き出すと『まったくだ』と笑い声を零してしまった。
一瞬今までの不快感なんて忘れて純粋に笑い声を響かせて、そんな私をチラリと彼が確認したと思う。
でも私の意識は拓篤に継続で向いていて。
「私を虐めようなんて・・・拓篤には100年早い」
「えっ・・・僕133歳になるまで千麻に勝てないの?」
「ううん、なっても無理じゃない」
「え、ええ~・・・、なんか・・・男として情けないなぁ・・・」
「・・・・そんな事ないでしょ」
「・・・・そう?」
「強引に引っ張るだけが男らしさでもあるまいし、拓篤のいい所は尽きない優しさよね。私は・・・そんなところが好き」
「・・っ・・・」
決して恋愛感情混ぜての一言ではなく、その人柄の賞賛のつもりで好意の言葉を躊躇う事なく告げてしまうと。
深い意味はないと理解はしているであろう拓篤が、それでもどこか気恥ずかしかったらしくその顔を赤くして。
見事定まらずに泳ぐ目も動揺激しくて。
ああ、そう・・・・好きだった。
私のちょっとした一言にしっかり過剰とも言えるくらいに反応して戸惑う姿が。
だってそれは・・・私の言葉を疑う事なく受け止めての反応だから。
拓篤とは変な駆け引きなく過ごす日々だった気がする。
懐かしい。
こんなもどかしい、自分の嫌なところを見ることのないような穏やかな日々だった。
「・・・・・・すいまっせーん、」
懐かしい感覚に浸って、その記憶を更に浮上させるように拓篤を見つめていた瞬間。
不意にその回想を立ち切るように響いた悪意の声。
瞬時に舞い戻った不快感の感情あらわに眉根を寄せて視線を動かせば、カウンターにその身を預けキッチンに並んで立つ私と拓篤を交互に見て嫌味に微笑む我が夫。