夫婦ですが何か?Ⅱ
あの時間を今になって回想すれば・・・、
些細なすれ違いだったのだと思う。
それまで上手く言っていた歯車が狂いだして、それに焦ってお互いに立て直そうと必死になるのに噛み合わなくて。
始まりは微々たる劣等感だったのだ。
人生の岐路。
子供の感覚抜けきらぬまま大人の社会に入らざるを得ない瞬間。
私は難なくその波に乗って、拓篤は乗れなかったという。
大手企業に就職が決まった私と、就職難な時代の波に呑まれた拓篤。
変わらず笑っていたから。
無理して笑っていてくれたから。
それに気がついていても指摘するのは彼の優しさを無下にする様で。
気がつかないフリをして、今まで通りに、自分は自分の流れに逆らわずいくべきだと判断して。
・・・・間違えた。
少しずつ、少しずつ、
疲れていたのだと思う。
今の私のように、無理して笑って、自分の本心を押し隠して。
それでも隠し切れない不安や葛藤の矛先は私に向いて。
本人も望まぬ悪意を微々たる量として言葉に混ぜて。
『千麻は本当に凄いね。綺麗で、賢くて、何でも出来て、』
そんな一言だったと思う。
表面ばかりは賞賛で溢れて、
でも裏には劣等感の感情をしっかり塗られた。
笑顔で言われるそれに違和感を覚えて、二度三度・・・日常的に繰り返されるようになって苦しくなった。
何でも出来るのだと、
元より備わっているかのように。
自分の陰ながらの努力はなかったかのように。
一番・・・その努力を知っていて、認めてくれていると思っていた人に、作られた笑顔で言われる一言の毒に日々侵されて。
そしてそんな言葉を口にして、後悔に沈んでいる彼を見るのも辛く苦しく胸が痛んで。
彼は優しいから。
悪意の中にも愛情を感じるから。
大好きだから・・・・・傍にいられないと思って。
嫌いなんて感情を抱く前に、
『別れて・・・・』
その一言は私が発した。
取り繕って、必死に作り上げた平常の生活の中で。
何気ない時間の、もう数えきれないほど2人で座ったソファーで隣り合って座っている時にポツリと零して。
微々たる間の後に、
『・・・・・うん、』
響いた返答に泣きたくなるほど悲しくて、でも、泣きたくなるほど安堵した。
【好き】だという感情を守る為に離れる道を選んで。
その位・・・・大切な人だった。