夫婦ですが何か?Ⅱ
今更だ。
この部屋・・・こんな匂いだったんだな。
まるで久々に帰宅した時のように自宅の匂いを再確認して、でも自分一人では出来上がらない匂いだと感じて笑って。
走らせた視線で翠姫の外遊び用のボールを捉えてそれを持ち上げる。
シューズクロークの上の棚には彼女の好きな多肉植物がチョコンとあって。
今まで当たり前すぎて捉えていなかった物に今は意識が研ぎ澄まされ集中。
当たり前で、価値も忘れていたような。
決して楽に手に入れた当たり前ではなかったのに。
静かにボールを定位置に置くとゆっくり廊下を歩いて寝室に向かう。
軽く鳴ったお腹に自分の空腹をようやく理解して、そう言えばこんな事になる前に彼女が夕飯を作っておいてくれたと記憶の回想。
「・・・・食べたら泣きそうだな、」
感傷的な今の自分を詰って笑い、力なく寝室の扉を開けた直後。
「・・っ・・・何してるの?紅ちゃん、」
捉えた姿に呆然とその一言を告げる。
不意に声をかけられた彼女も驚く事もなく、静かに俺を振り返ると普通に言葉を投げ返して。
「ん?久々に寝室も入ってみたくて」
「・・・・」
「でも、雰囲気違うね。なんか茜っぽくないっていうか・・・、前の方がシンプルで好きだったかも」
「うん・・・でも、俺は今はこれが好きだから・・・」
「ふぅん、そっか」
興味があるのかないのか。
さして問題でもないとばかりに俺の言葉に納得した彼女が、ベッドに座りながら周りを見渡して。
どこか懐かしい光景でもあるのに違和感。
同時に・・・、
「なんか・・・少し離れてる間に茜の好み変わったよねぇ・・・、小物や服装なんかも。
あっ・・・・女の子の好みも、」
「・・・・そう?」
「だって、奥さん全然茜の好みっぽく無かったから驚いちゃったもん。本人に言ったら成行きだって言ってたけど、」
「・・・・本人に・・・言ったの?」
「うん、だって、茜の好みってもっとこう・・分かりやすく守ってあげたくなるような可愛い子だったじゃない。夜兎みたいに、」
「そんなのっ・・昔の話でしょ?」
「うん、だから、昔の話だし、別に気にしないでしょ?」
「っ・・・」
気にしないよ。
多分、こういう時じゃなかったら。
言ったのが紅ちゃんじゃなかったら。