夫婦ですが何か?Ⅱ
そんな俺を捉え、フッと軽い笑い声を響かせた男が、下降する数字を確認しながら続きを語る。
「重要なのは詳細なんですよ」
「詳細?」
「『好き』なら、何が好きか、どこが好きか。
『良かった』なら、どの部分がどう良かったのか、事細かに明確に。
自分の個性を見つけて認めてもらって。
やっと、初めて特別なんだって自信を持つんですよ、」
「・・・・」
「『分かるだろう』って、その過程を端折って、
『大好き』だとか『愛してる』と告げても受け取る側はどこか中途半端で、本心からだって伝わらないんです。
向こうは元々、それが本心だって前提で聞いていますからね。総称のその言葉より説明する詳細の方が重要なんですよ」
「・・・・・」
「言っている意味は分かりますか?」
「あっ・・・うん、・・・ああ、わかって・・
・・・・・・なかったぁ・・・・・」
分かってしまった自分の落ち度。
それに落胆して頭を抱えて項垂れて、クスクスと響く男の失笑に悔しさも浮上。
分かったよ。
悔しいけど、今の説明で見落としていた物を完全に。
そうだよ。
そうだ、
確かに、【特に】千麻ちゃんには必要な物だ。
「千麻は努力家で、他より勝っていると自信を持つことで【あの】千麻を保ってるんですよ」
「っ・・・・あああああ、もう・・・もうっ・・・俺って本当に・・・」
「恋は盲目・・・なんて言葉を作った人を尊敬しますね」
「っ・・・千麻ちゃんに・・・会いてぇ・・・」
「・・・残念ですね。まだ出社して間もない始業時間帯です」
嫌味にも腕時計を確認した男が楽し気にそれを告げて、更に『働け』と言わんばかりにエレベーターの扉が開く。
自分の仕事に集中した社員の行きかうエントランス。
その雑踏に深い溜め息をつくと渋々その身を出していって、スマートに秘書業務こなす男の後を重役らしくついて歩いて。
再び自分の装いに対する他者の視線が鬱陶しく感じてきた瞬間。
「ーーーーーっ!!」
微かに聞こえた響きに足を止めて。
半信半疑で体の向きを回転させ、同時に視線も至る所に走らせる。
だって、
あり得ないと思うけど、
今の声はさ、
千麻ちゃーーー
「茜っーーーー!!」
あっ、視点が定まる。
ピントが合って、でも『何で?』と頭に浮かんで、
それでも、
その姿を目に映した瞬間に、反射的に、無意識に、
顔が綻んじゃうんだよ・・・・千麻ちゃん。