夫婦ですが何か?Ⅱ





あまりに普通に会話が成されていたから忘れていた事実。


うっかりいつものペースで言葉を繰りだせば、『吐きそう』と耳に響いたと同時に視界に捉える彼女も口元を覆って。


本気でマズイと焦って、手摺りに寄りかかる彼女に呼びかける。



「千麻ちゃん?大丈夫!?ごめん俺、すっかり忘れて普通に話して、」


『えっ?あっ・・・ああ、はい、・・・大丈夫です』


「本当に?」


『はい、すぐに落ち着くかと、』



ああ、でも・・・健在かぁ。


もしかしたら治ったのでは?と淡い期待をかけていて、でもそう簡単に治癒される筈ないと示されたような事態に軽く溜め息。


そうだよな。


前回だってこれを治す為にどれほど苦労した事か。


苦く長いリハビリ期間を思いだすと泣きたくなるくらいもどかしい。


ああ、でも、また・・・なんだよな。


さて、今度の場合住居が同じで、寝る際などはベッドも別だろうか?


そんな事まで思案を巡らせている頭に。



『ダーリン、』


「ん?」


『・・・・・おはようございます』


「ふはっ・・・今更ぁ?」




まさか今更改まってそんな一言がくるとも思っていなくて、だから耳に響いた瞬間に小さく噴き出して笑ってしまう。


でも追って告げられた言葉にそんな失笑は掻き消される。




『今更ではありますが。・・・・それを言わないと、一日が始まらないようで』


「っ・・・」


『どうも・・・落ち着かなくて、』


「・・・・」


『非常識にも、それを言う為に会社まで押しかけてしまいました』


「っ・・・千麻ちゃーー」


『非常識な悪妻で・・・申し訳ありません』


「・・・・・フッ・・・非常識・・・ばんざーい」



【申し訳ありません】と謝罪を口にするくせに、微塵もそんな感情なく口の端をあげた彼女に一瞬は唖然。


でも、すぐに噴き出して困ったように笑うとそれを称えて。


うん、そうだね。


俺もやっと、


やっと・・・・今日が始まった気がするんだ。



「・・・・・おはよう、・・・千麻ちゃん」


『・・・・・おはようって・・・当たり前に交わしてましたが・・・・凄く、自分のスタートを切る言葉だったんだって気がつきました』



しみじみと、実感したと言いたげに柔らかく彼女の声は入りこんで。


捉えている表情も穏やかであるからこちらの表情も類似する。


< 504 / 574 >

この作品をシェア

pagetop